2013年11月7日木曜日

庶民の味方、759

香港は日本の農林水産物輸出先ではここ数年ダントツの世界一位で2012年は900億円以上の農林水産物が香港に輸出されたとのこと。
内訳を見ると、意外にも一番多いのが真珠で、2位になまこ、たばこを挟んで、3位が豚の皮と、中華料理の材料も実は日本からの輸入物だったりするのだな、というのがわかる。


菓子類や清涼飲料水でも香港への輸出額は大きく、ジャスコやユニー等の日系のスーパーは言うまでもなく、
Parkn ShopやWellcome、Market Placeといった地元系のスーパー、セブン-イレブンやサークルK等のコンビニでも日本の食品や飲料はどこでも見かけるようになっている。

ただ、日本の食品は価格が比較的高く設定されていることが多く、ちょっとしたレトルト食品や即席麺なんかでも、日本の価格と比較して、手が伸びないなんてことも少なくなかった。

そんななか庶民の味方としてここ最近猛烈な勢いで出店を続けている、日本食品を中心に販売している食料品店が"759 阿信屋"だ。名前の"759"は、この会社が上場している香港証券市場での証券コードで、"阿信"とは、日本のかつての人気ドラマ"おしん"の中国語。その不屈の精神にあやかって、商売が繁盛するように、とつけられたようだ。"759"は広東語のリズムが良く、香港人は"阿信屋"ではなく、"759"(無理矢理カタカナで書くと"チャッ、ンー、ガウ")と呼ぶことが多い。





















































どちらかというと、大通りや繁華街ではなく、比較的賃料の安いローカルのショッピングモールや郊外にお店があることが多く、その薄利多売戦略もあって、低中所得層から大きな支持を得ている。2010年に最初の店舗を出店してから、今年の9月時点で150店強を数えるまでに成長している。 ここで売られている商品は、もちろん人気のメインストリーム系の商品もあるのだけど、企画物で長く日本では売られずに在庫が残ったと思われる商品や、地方の会社が生産している、都心ではあまり見かけない製品、缶もの等では、やや凹みが目立つ製品等を安く仕入れているらしい。

さて、この"759 阿信屋"を展開している会社は、実は元々食品を扱っている企業ではなく、なんと電子部品の製造企業で、現在でも電子部品のビジネスは続けている。確か2011年頃だったと思うけれど、この会社でエンジニアとして働いている人から相談を受け、会社が食品のビジネスを始めて、自分も食品部門に異動させられそうになって悩んでいる、という相談を受けたことを覚えている。その時はまだ"759 阿信屋"の存在感はそこまで大きくなく、まさかここまで大きくビジネス展開をしてくるとは夢にも思っていなかった。 当初はインスタント・ラーメンやお菓子、飲料を中心をした商品ラインナップも、徐々にカテゴリーを増やし、生活用品、ペット用品、冷凍食品等も売り出し始めていたかと思ったら、先日遂に生鮮食品を始めたらしく、店舗に北海道産のじゃがいもやら、青森のにんにくやらが売られていた。大型の店舗は、商品の充実度としては、ちょっとしたスーパーと言っても差し支えないほどになっている。 "759 阿信屋"が人気になる前、香港には実は既に"OKASHI LAND"や"優の良品"といった、日本のお菓子を中心に販売する店舗が存在したのだけど、こんな成熟したと思われるような、食品の輸入販売という市場にも、やり方によってはまだまだ参入、発展の余地があるのだな、と目の覚める思いだ。

















実は今日になって、この会社は、今度は化粧品の小売りに進出することを発表し、株価が跳ね上がった。1.12ドルで始まった今日の相場は、終わり値で1.57ドルをつけ、40%強の値上がりを見せた。ブログを書いている場合ではなく、株でも買っておくべきだったのだ。










2013年7月17日水曜日

ピンクイルカといるいる詐欺

またまたひっかかってしまった。しかも二回も。

先週、突然会社の同僚がピンクイルカをみたいと言い出し、同僚とその知人達、総勢9名でランタオ島の大澳という場所に行くことになった。大澳とは、自分の住む東涌からバスに乗って約45分の漁村で、古くは石器時代に遡って人の住んでいた跡が残っており、宋の時代には塩田で栄えた街であったらしい。中国内戦時代には中国から逃れた移民の住処となり、現在は多くの住民が漁業で生計を立てている、香港でも特殊な地域となっている。東洋のベネチアなどと一部では呼ばれているようだけれど、まあ海南島がアジアのハワイと言われるのと同じぐらい怪しげな例えだと思う。

さて、なぜピンクイルカをみるために大澳なのかというと、この漁村から12人乗り程度のモーターボートで、近くの海まで繰り出し、ピンクイルカを見るツアーというのが漁民によって提供されているからだ。漁の片手間のアルバイトのようなものだと思うのだけど、HK$20で約20分ほど海の上をふらふらし、ピンクイルカを探し回って帰ってくるツアーだ。とは言っても、年々個体数が減っているピンクイルカを見るには運も必要で、これまで3回チャレンジして、見れたのはたったの1回。確率にしてわずか33%。今回はこれを50%のイーブンに持ち込もうと意気揚々と乗り込んだのだけど、一回目のチャレンジではまったく手応えなく、昼ご飯を挟んでもう一度頑張ったけど、やはり報われず、結果としては20%に下げてしまう悲惨な事態となってしまった。

前回別の知人と来た時に、実はもうピンクイルカはいないのに、"いるいる"と観光客を呼び込む"いるいる詐欺"に違いないとの結論に達していたにも関わらず、今回も二回も引っかかってしまい、いるいる詐欺の疑いはますます高くなってきた。まあ詐欺と言ってもHK$20に過ぎず、大澳の町並みを水の上から眺め、風を切って進むボートは気持ちよくもあったので、大きな不満はないのだけど。

お昼は元水上警察を改築したTai O Heritage Hotelでランチをし、海産物のお土産を買って、またもやバスで東涌まで山を越えて戻った。本当は東涌行きのフェリーも出ているのだけど、時間が合わず、それはまた次回。

ちなみに、本気でイルカを見たい人や、時間と資金がある人には、本格的なイルカツアーを提供する会社もある。まだ参加したことのあるという人には会ったことがないので、今度身銭を切って試してみようかと思っているけど、大澳のいるいる詐欺ツアーの約20倍ものコストがかかるので、どちらが費用対効果が高いのか、もう少し検討してみようと思う。




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2013年4月9日火曜日

低学歴国家、日本

仕事柄様々な人の履歴書を見る機会が多いのだけど、最近特に力を入れている香港人の管理者層のプロジェクトに関わると、マネジャークラスの求人に応募してくる人の多くが修士以上の学位を取得している。修士を2つぐらいとっている人も決して珍しいわけではない。

日本だと、修士課程は学士課程から継続して進む傾向が強いが、香港では決してそうではなく、一度社会に出てから修士取得のために大学に戻る人、仕事を続けながらパートタイムで取得を目指す人、様々だ。そのため、主要な大学のほとんどでパートタイムの修士課程が非常に充実しており、平日の夜、週末の時間に授業が取得可能になっている。更に、英国やオーストラリアの大学が、定期的に教授を香港に派遣して、地元大学の教室を借りて授業を行ったり、完全ににリモートでウェブベースで修士が取得できたりと、選択肢は幅広い。MBAだけを見ても、HKUST, HKU, CUHKを筆頭に、理工大学、城市大学もMBAのプログラムを提供しているし、海外大学のプログラムで香港での受講が可能なものを含めると、その数は軽く10を越えてくると思われる。単純に一プログラムあたり80人の学生がいるとして、フルタイムも含めて15のプログラムがるとすると、毎年1200人もの人がMBAを取得していることになる。やや安売りし過ぎではないかと懸念するぐらいだ。他の専門を含めると、東京より人口の少ないこの都市で、それこそ毎年何千人、もしかすると1万を越える人が修士課程を修了しているかもしれない。最近友人の一人がMaster of Science in Information Technology in Educationという香港大学の修士課程を修了した。つまり、テクノロジーをどう教育の現場で生かしていくのか、というかなりニッチなコースなのだが、それでも数十人のクラスメートがいたとのこと。彼女は今は、香港のインターナショナルスクールで、AppleやGoogleと協力しながら、子供達向けのIT教育の質の向上に努めている。

さて、こんなにも人々が修士学位の取得に熱心なのは、何も香港人が特別に知識欲が高く、勉強熱心だというわけではないと実は思う。いつも思うのだけど、日本では電車に乗っている間に本を読む人が非常に多く、会社内でも常に新しい知識や技術の習得に励む人も多く、玄人はだしの知識を持つ趣味人もたくさんいる。ただ、年功序列、終身雇用がまだ前提として認識されている日本では、社内での功績や認知は重要だとしても、外部機関での資格や学位が重要視されることはあまりないのではないだろうか。一方で、日本以上の学歴社会であり、かつ非常に流動性のある労働市場を抱える香港では、社内での昇進や昇給のみならず、転職の際にも学歴や資格は非常に大きな影響力を持つ。例えば、クラスメートの一人は、社内での昇進に必ず必要だからMBAを取りに来た、とはっきりと言っていた。彼の所属する組織では、修士を持っていることは当然で、博士課程を修了している人もごろごろといるらしい。一流の会社で出世コースを目指そうと思ったら、日本では「一応大学ぐらい出ておきなさい」だが、香港では「修士ぐらい取っておきなさい」なのだ。そうなると、修士が現実的に「役に立つのか」という議論はあまり意味をなさなくなる。もう持っていること自体が前提なのだ。まさにどんなに優秀な頭を持っていても最終学歴が高卒では一流銀行の出世コースのスタート地点にも立てないのと同じ論理だ。

なので、修士取得者である香港人は、能力的に学士出身の日本人サラリーマンより優れているかというと、もちろんそうとは限らない。仕事の能力と学歴は関連ないとは言わないが比例するものでもなく、修士を取得していなくても実戦で経験を積んだ素晴らしい能力を備えている方はたくさんいる。そもそも修士レベル、特に文系の修士では、取得したとしても何かの能力やスキルが飛躍的に伸びたりするものではなく、むしろ物事を大局から見るスタンスや事象の切り分けのフレームワークを認識し、最先端のトレンドや未知の領域への効率的なリーチ、そして人のネットワークを含めたリソースへのアクセスが得られる利点が比較的大きいように思われる。

では何が問題になってくるかというと、学歴という確立されたと言ってよいであろうフレームワークを当てはめると、海外に進出する日系企業の中では社内での逆転現象が発生する可能性が高い、ということだ。日本では東大、京大、早慶出身で社内の出世街道まっしぐらのエリートでも、海外に駐在に出てみると、現地拠点の課長・部長レベル、つまり部下になるような層に、ハーバードやケンブリッジとは言わなくても、欧米や現地のトップ校レベルの修士を取得したスタッフがごろごろいる状況に直面する。自分は気にしなくても、相手は気にするものなのだ。「今度来た日本人の上司は、日本のなんとかという大学出身みたいだけど、Master Degreeは持ってないらしいよ。」という目で見られてしまう。それはあたかも日本国内で、「技術部の〇〇は仕事はできるけど、高専の出身だから出世できないだろうなあ。」なんて高をくくっている自分たちの姿なのだ。まあ海外拠点で日本人駐在員が現地の社員と出世を争うということはないだろうけど、実は現地の社員から、自分たちより学歴が低いのに、という色眼鏡で見られている可能性がないとは言えない。総じて修士まで出た人は英語が堪能だったりするので、もし自分が英語が苦手であればなおさらである。

そんなわけで、日本企業は新卒採用の時に限らず、社員の学歴マネジメントというのが必要になってくるのではないだろうか、というのが最近考えていることだ。海外勤務の可能性が高い社員には、英語のスキルを磨かせることはもちろんのこと、修士学位の取得を目指させる。海外での修士学位の取得をサポートすれば英語も伸びて一石二鳥だ。既に韓国企業などはこういう動きがあるように思える。自分の通ったHKUSTのMBAにも、韓国の銀行から幹部候補生が何十人も送り込まれて来ていた。正確に言うと彼ら向けの特別プログラムがデザインされているようなので、MBAそのもののコースを修了するわけではないようだけれど、一応アジアNo.1と言われるMBAのクラスを含む高等教育を修了したというのは、今後アジアでビジネスを展開していく上では箔がつくのではないだろうか。もちろんこんな不毛な学歴競争になんの意味があるのか、とか、ただの学歴バブルではないか、という批判はあるだろうけど、現実的には、みんながやっていることをやらなかったらその時点で圧倒的不利になってしまうという状況になりつつあると思う。日本の受験システムは気に入らないので自分は義務教育後は独学で頑張る、と言ってみたって、大多数の人は結局は社会に受け入れられ難いのと同じことだ。ある程度は割り切って現実を受け入れ、その中でどう効率良く見栄えの良い、また希望的には実のある学歴をデザインしていくかということは、海外との関わりにおいては非常に大事になってくるのではないだろうか。個人が転職や高等学位の取得を自発的に目指す海外とは異なり、一つの企業に長く勤めることを期待される日本では、個人の希望だけではどうにもできないことなので、どうしても雇用主側のサポートが欠かせない。海外に活路を求めると腹を括った日系企業にとっては、社員教育、キャリアデザインの一環として、海外での修士学位の取得サポートというのは、検討に値するテーマではないだろうか。

2013年3月9日土曜日

ベンチャーキャピタリストになった日

一週間の帰省から香港に戻ると、郵便ポストに不在中に郵便物があった旨の通知が残っていた。こうなると面倒くさい。再配達の手配か、最寄りの郵便局に自分で取りに行くか、もしくは会社近くの郵便局に転送してもらい昼休みにでも取りに行かなければいけない。郵便物の見当はついていて、Facebook上でクラスメートが話題にしていた卒業写真がついに届いたのに違いなかった。気になったのは不在中の通知届けが二枚あったことだけど、恐らく写真とデータが分かれて送られて来たのだろう、ぐらいに思っていた。

いつもは会社近くの郵便局に転送することが多いのだけど、不在票に気づいたのがもう水曜日だったので、その週の土曜日まで待って、自分で最寄りの郵便局まで出向くことにした。そして当日、郵便局に向かった自分を待ち受けていたのは、待ちに待っていた送り主からの半分あきらめかけていた郵便物だった。

不在票のうち一枚は確かに卒業写真だった。そしてもう一枚の送り元はSanta Monica, California, USA。一瞬考えた後、思い当たったのは、自分がベンチャーキャピタリストとして投資していたアメリカのある会社のある製品のことだった。















昨年7月にIndiegogoを通してUS$30の資金提供をしたBug-A-Saltという対蠅ショットガンが、2012年9月という予定配送時期を大幅に遅れて、ようやく届いたのだった。下記のロケットニュースにも記事があったけれど、このショットガンは、つまり少量の塩を弾丸にした、火薬・化学品不使用、バッテリ不要、楽しく蠅退治ができる玩具なのだ。


スナイパー気分でハエ退治! 対ハエ用ショットガン「BUG-A-SOLT」 がカッコイイ! / 銃弾はなんと“塩”

In Latest Bid to Lord Over Flies, One Man Tries Salting Them Away


ちなみに、Indiegogoとは起業家のためのオンライン資金調達プラットフォームで、一般から小額の資金を幅広く募り、引き換えに製品の格安での提供や一般販売前の配送を約束する仕組みになっている。大きなリターンを期待するというよりは、頑張っている起業家を応援して、うまくいけば自分もちょっと楽しめる、ぐらいの距離感のシステムだ。










US$30というしょぼい額ながらめちゃくちゃかっこ良く言ってみればベンチャーキャピタリストである。定価US$34で販売が始められた製品をUS$30の投資で手に入れ、立ち上げのプロセスの一部に勝手ながら参加したような気分も味わえ、配送の遅れもむしろどうなることかというドキドキ感を感じる良いスパイスにもなり、且つ話のネタや来客時の自慢(?)にもなるであろう。これだけ配送が遅れたのは、製品の特性上、輸入規制に引っかかる恐れがあり、関係当局とのネゴシエーションやサンプル提出、検査のプロセスが長引いたとのこと。ただ、この間も不定期に状況を知らせるメールが届き、最大限の努力をしていることが伺えたため、オーダーはキャンセルせずに長い目で待つことを決めていた。





というわけでようやく手元に届いたBug-A-Saltなのだけど、肝心なことに獲物となる蠅がなかなかいない。むやみに打ちまくるだけだと部屋中が塩だらけになってしまうので、蠅の季節(?)までもうしばらく待ってみようと思う。

2013年2月17日日曜日

旧正月に不動産価格の高騰を憂う


つい先日新年を迎えたばかりなのだけど、香港は旧正月がメインなので、先週末から5連休となった。
特に予定もなかったので、大晦日に銅鑼湾のビクトリア・パークの花市に繰り出し、正月二日のビクトリア・ハーバーの花火を鑑賞したり、テレビの正月特番をだらだらと見たり、知人の家に"拝年"と呼ばれる正月の挨拶に行ったりと、何年か振りに旧正月の至極まっとうな過ごし方を楽しんだ。









さて、初四と呼ばれる正月四日にあたる先週水曜日、MBAの同級生に招待され、彼の新居を訪れることになった。彼の家は、烏溪沙という地下鉄馬鞍山ラインの一番端っこの駅付近にあり、繁華街の尖沙咀からだと約1時間はかかる。この辺り一体は馬鞍山エリアと呼ばれ、新興住宅地で2000年代後半から新しいマンションが次々と建ち、現在も建築中のアパートがいくつかある。

烏溪沙

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彼の住む銀湖天峰というマンションは、この辺りでもハイエンドの豪華なマンションで、
目の前に吐露湾が広がるハーバービューの素晴らしい眺めなのだけど、その視界の一角には既に新しいビルが建築中で、せっかくのハーバービューも半分ぐらいになってしまうそうだ。

ここ数年の香港のマンション価格の高騰は激しく、ここまで郊外に来ても、マンションの購入は簡単ではない。このマンションも、122月は1スクエアフィートあたりHK$6,400前後だったが、現在ではHK$7,500を越える値段がつく。たった一年で約20%も値上がりしていることになる。香港の面積の単位はスクエアフィートなので、一般的な700スクエアフィート(約65平米、20坪)のマンションだと、軽く6,000万円を越える。

#香港の家探しに重宝するGoHome.com.hk

これは坪単価でいうと310万円を超え、世田谷区、新宿区より高く目黒区や品川区に匹敵する高さとなる。ポイントは、これがいわゆる中心地を認識されているエリアから地下鉄を乗り継いで1時間もかかる比較的不便な場所の話であるということで、首都圏で例えるならば、東京を飛び出して千葉県流山市や埼玉県戸田市ぐらいのイメージだ。なのに、マンションの値段は中目黒レベル、という異常な状況になってしまっているのが今の香港。

ダウンタウンから1時間の距離でこの値段なので、中心地でマンションの購入をしようと考えると、億の単位になることは覚悟しなければならない。香港も格差社会で稼ぐ人はとことん稼ぐが、中央値を見ると、個人の月給でHK$12,000(14万円強)、家計でHK$20,000(24万円)ぐらいなので、6000万のマンションを買おうとすると年収の軽く20倍になってしまう。一般市民にとってマンションの購入が夢のまた夢となり、香港政府の住宅施策に対する不満が爆発している。政府もバブル的な高騰を防ぐため、値上がりへの懸念を表明したり、必要な頭金のパーセンテージを上げたり、マンション購入時の印紙代を上げるなど、沈静化に努めているけれど、中古住宅市場の取引量が少し減った程度で、相変わらず新しいマンションは飛ぶように売れ、値段が下がる様子はない

新しいマンションはどれもクラブハウス、プール、BBQ施設やスパを備えた豪華な作りとなっており、跳ね上がった値段を正当化するようなプレゼンテーションに力を入れている。香港のマンションはやたら名前が立派で、凱旋門とか、帝峯皇殿とか、尚豪庭だとか、威厳たっぷりのありがたそうな名前が使われることが多いが、日本人的には豪華な施設やサービスを備えたマンションより、質実剛健で落ち着いたマンションがいいのだけど、それを探すのは香港では至難の業だ。

ちなみに、在住日本人にとっては、販売価格よりも賃料が気になるところだけれど、銀湖天峰を借りるとすると最低でHK$15,000(約18万円)からが相場で、それなりの収入がなければとても借りられるものではない。もちろん地区に加え広さや築年数も関係してくるので、探そうと思えばHK$10,000前後でも見つかることは見つかるのだけど、それでも自費で負担しようと思うと大きな痛手となる。

自分が香港に来た当時は、やや不便な場所だけど外国人に人気の高いDiscovery Bayで、一人向けのスタジオタイプのマンションをHK$4,000で借りていたけれど、そんな家賃でマンションを探すことは今はもはや不可能になってしまった。かつて住んでいたマンションの今の家賃を調べてみたらHK$13,000に届こうかというところまで上がっていた。8年の間に軽く3倍を越える値上げになってしまったということだ。




2013年1月24日木曜日

続 Kindleストアのオープンは海外在住者にとっては一大事、ではなかった件


香港にはAmazonのような大手の電子書籍販売サイトはない。香港の知人友人はどうしているのだろうと思い周りに聞いてみると、電子書籍なんて、インターネットにいくらでも落ちているよ、と言われることが多い。そもそも正規の料金を払って購入しようという気がない。驚くべきことに、普段電子書籍をかなり読んでいても、これまで一回も【購入】をしたことがない、という人も何人かいた。彼らはインターネット上で無料ダウンロードできるサイトを知っているのだ。

これまで一生懸命Amazonから清く正しく購入しようとしてきたけれど、なにしろ"電子"書籍なのだから、かつての音楽ファイルのように、インターネット上でダウンロードすることはテクニカル的には至極簡単だ。

もちろんそこには常に著作権の問題がついてまわるのだけれど、これだけ容易に手の届くような状況だと、罪悪感の壁を越えるのは赤信号を渡るのと同じぐらいのインパクトしか持ち得ない。

英語の書籍であれば、人気の高いMichael LewisやMalcolm Gladwell等の書籍のPDF版を見つけるのはGoogleすればすぐに出てくる。日本の実務書や参考書等はなかなかないようだけれど、漫画に関してはかなり充実したデータベースを誇る(?)ウェブサイトがいくらでも存在する。
さて、海外からの購入制限をいったん解除できるか調査したいので、長期出張の期間を教えてくれ、という問い合わせに対して、なんと答えるべきかを少々考えた。はっきりといつまでと言ってしまうとその期間を越えると制限解除が終了してしまうのではないかと思い、数カ月ごとに香港、中国、日本を行ったり来たりしており、期間は未定、と曖昧な回答をすることにした。あながち嘘ではない。。。

待つこと2週間ほどで回答が来て、

"担当部署で確認し、購入制限を解除して良いとの回答がありましたため、当サイトにて制限を解除いたしました。しかしながら、今後も日本国外から購入する場合は、一定回数後に制限がかかりますので、その際はカスタマーサービスへご連絡くださいますようお願いいたします。"

とのことだった。

推測ではあるが、"一定回数後"というのは、今回と同じ"5冊の購入後"ではないかと思われ、その後はカスタマーサービスに連絡するということは、今回と同じ事をまた繰り返さなければいけない、という意味と思われる。世界一の顧客サービスを謳う割にはやや期待はずれの回答だ。この頃までには、Amazon Japanの電子書籍の配信開始という事実に対しての興奮も既に冷めており、むしろ世の中のいわゆる違法電子書籍配信サイトがどれだけ広まっているのか、という"事実確認"に力を入れるようになっていた。

なので、せっかくAmazonには一時的に制限を解除してもらったのだけど、その後Kindleストアで書籍の購入はまだしていない。こうして見ると、Amazonが海外在住者に購入を認めない、というのは、一体誰の何の権利・利益を守っているのか、よくわからなくなってくる。海外からの購入を認めていれば少しは見込まれていたはずの売上はどこかに消えていってしまっているのだ。AppleのiTunesが成功しているように、"適正な"価格を提示することによって、顧客は海賊版ではなく対価を払っても正規版を手に入れたい、という層はある一定のボリューム以上はいると確信している。自分ももし電子書籍がペーパー版定価の半額で手に入るのであれば、喜んでその分の対価を払うと思う。
非常に簡単に海外在住日本人の日本語書籍購入における心の中の皮算用を図式化すると下記のような感じになる。

得られる効用は同じという前提で、金銭的コスト+手間+後ろめたさを入手のための総合コストとすると、手間もお金もかかるペーパー版のコストは非常に高くなり、これまで海外在住者が感じていた不便さを表している。仮に電子書籍がペーパー版の半額で提供されるとすると、手間も後ろめたさも感じない電子書籍のコストパフォーマンスはピカイチだ。

ところが、正規電子書籍の登場で大幅にコストが下がるはずだったにも関わらず、その正規のサービスが海外で使えないとなると、後ろめたさコストを抱え、探したりダウンロードの手間がかかるとは言え、金銭的コストがほぼ0の海賊版に流れてしまうのは合理的に見えてくる。もちろん後ろめたさコストはその人が持つモラルのレベルにより大きく変動するので、もしかしたら海賊版の総合コストがペーパー版のコストを上回る、というケースも中にはあるかもしれない。それよりも、そもそも後ろめたさコストが限りなく0に近く、海賊版の総合コストが電子書籍のコストを下回る、という可能性もおおいにあるのだけど。

一つはっきりしてきたのは、日本のAmazonが電子書籍の販売を始める始めないに関わらず、既に海外在住の日本人はPDFやらJPEGといった形態による日本語書籍コンテンツの流通による恩恵を受け始めていたということ。話には聞いていたけれど、ここまで様々な種類のコンテンツが手軽に手に入る状況だとは思っていなかった。週刊誌でさえ、発行して直ぐに電子化されてオンラインでダウンロードされるようになってしまっている。ここまで簡単になると、いくらモラルの高い自分であってもいつまでその魅力に抗うことができるかはなはだ疑問である、と一応述べておくことにしておく。



2013年1月3日木曜日

Kindleストアのオープンは海外在住者にとっては一大事、ではなかった件


ちょっと前のポストで触れたように、日本のKindleストアのオープンに期待を持っていたのだけど、数週間試してみて、かなり雲行きが怪しい、というか、個人的な運用の観点からはないよりマシというレベルの手応え、割り切れないがっかり感を感じている。

そもそもKindleストアに大きな期待を寄せていたのは、これまでのように帰国の度に重たい思いをして本や雑誌を香港に運ぶ必要がなくなるかもしれない、という淡い夢を抱いていたからであって、利用の前提として、香港にいる間に日本の本を読みたい時にすぐダウンロードして読むことができるという状況を想定してした。順調な滑り出しにすっかり気をよくしていたけれど、そもそもその前提が甘かった。

Kindleストアで電子ブックのダウンロード購入を始めて2週間程の間に数冊購入し、1クリックで書籍が手元に届く快感に浸っていたある日、いつもの様に"1クリックで購入"ボタンを押したところで見慣れぬメッセージが現れた。

"Amazonアカウントにご登録の国とは別の国から、商品の注文が試みられました。

お客様は現在国外にいらっしゃいますか?
Kindle本の注文手続きを続けるには、カスタマーサービスにお問い合わせくださいしてください。
最近他の国に引っ越しましたか?
Amazonアカウントを簡単にお住まいの国を変更するできます。"

あまりにも順調すぎてすっかり気を抜いていたけれど、こんなところに落とし穴が待っていた。これまで紙媒体の本は何十冊と香港からAmazonで購入していたけれど、こんなメッセージは見たことがなかった。Kindle本(と呼ぶらしい)に限っては海外からの購入はできないということか。しかもなんだか日本語が変だ。"お問い合わせくださいしてください"とか"国を変更するできます"など、プルーフリーディングもせずに実装してしまったエラーメッセージのようだ。

引っ越したのは最近ではないが、確かに国外にいる。メッセージの最後を読むと、アカウントの居住国情報を変更すると問題解決するともとれるが、実は居住国を変えてしまうと日本のAmazonでKindle本が買えなくなってしまう。これは実際に居住国情報を変更するページの目立たないリンク先にこっそりと下記のように明記している。

"日本から国外に転居される場合、住所を変更すると、Amazon.co.jp のKindleストアでのショッピングができなくなりますので、ご注意ください。" 

だいたいショッピングサイトなのにショッピングができなくなるような設定を、軽々しく"変更するできます”なんて言わないでいただきたいものだ。

そこで、まずはカスタマーサービスに問い合わせをしてみることにした。なにやら海外在住ということが問題らしいので、ここはひとまず、長期出張中に購入を試みたところ問題あり、という趣旨で問い合わせをしてみる。

すると下記のような返信が返ってきた。

"Amazon.co.jpで販売されているKindleコンテンツについては、出版者または権利者により地域制限が設定されているため、日本国内に在住のお客様のみご注文いただくことができます。

しかしながら、お客様は長期出張中という事でしたので、海外からの購入制限をいったん解除できるか調査させていただきます。

つきましては、お客様の長期出張の期間を教えていただきたく存じますので、お手数ですが、再度カスタマーサービスへご連絡くださいますようお願いいたします。"

なぜ紙媒体であれば海外発送できるのに電子ブックだと国内のみなのかさっぱりわからないし、地域制限をすることで出版社または権利者の何の権利が保護されるのはも判然としない。一方で、長期出張の期間を聞かれてくるとは全く予想していなかったが、状況に応じて個別に制限を外すことは技術的には可能らしい、ということは判明した。

そしてメールの最後には下記のようなメッセージが。


"Amazon.co.jp は、お客様からのご意見により、地球上で最もお客様を大切にする会社を目指しています。”

地球上で最も、ときた。これは期待を持っても良いのではないだろうか。ちょうど家族へのクリスマスプレゼント用に注文していたKindle Fire HDも実家に届いた。こんなロイヤルカスタマーをAmazonが見捨てるはずがない、と信じて。

続く。。。。。